10月7日、神宮の杜で宙に舞う古田を見つめた。
それは2001年の秋以来、6年ぶりの、しかも寂
しい胴上げだった。
日本ハムの北海道移転以来、唯一の東京のチー
ムを率い、選手会長時代はストを強行するなど、
プロ野球のリーダーを担ってきた男がユニフォー
ムを脱いだ。

その日の神宮界隈は異様な空気だった。 千駄ヶ
谷駅を降りるとすぐに係員がチケットの完売を知ら
せ、入場ゲートでは念入りにチケットチェックが行
われた。 スタンドの空気もずっしりと重く、とても
緊張感があり日本シリーズ、いや五輪の優勝戦の
ようだった。
スタメンで登場した古田は、もはやプロの野球選手
ではなかった。 肩も弱く、バッティングもへっぴり
腰。 最後にホームランを期待したものの、やはり
引退の判断は間違ってなかったのだと現実を知る。
それでも、18年間見てきたその姿が最後だと思う
と、瞬きすら惜しく感じるのであった。
結果、点差以上に惨敗に終わったが、9回に込め
られた18年をしっかりと焼き付けることができた。
セレモニーは、国営球場だけに仕掛けが不可能の
せいかいたってシンプル。 対戦相手チームが一
礼してグラウンドを去ったのが印象的だった。
球団がなくなるわけではないのに、セレモニー後
も刹那を感じ、しばらく5番・古田の文字を見つめた
後、重い腰を上げて球場を後にした。

この先、これほど人を惹き付ける選手は現れるだ
ろうか。 立浪・前田・金本・小久保・清原・・・。
いいプレイヤーはいるけれど、野球を知らない人
たちも関心を持つだろうか。
よく古田はコミュニケーションが下手だという話を
耳にする。 確かに、指導者としては勝手が違った。
でも、巨人の上原、高橋、二岡のようにエリート街
道を歩き7億円とも言われる契約金を得たワケで
はなく、口うるさい上司に耐えて積み上げたキャリ
アは古田本人だけではなく、球団・ファンにたくさん
の財産を遺してくれた。 いくら金にモノを言わせて
トップ選手を引っ張ってきても、全然優勝できない
のはその差である。
彼はいずれまたユニフォームを着るだろう。
その日の声援を忘れるはずがないのだから。
ある女友達が「すぐに元カレのことは忘れる」と言っ
ていた。 むむむ、たくましい。
果たして俺は記憶に残る人生を歩んでいるか、ちょ
とだけ遠くを見つめる今日この頃。。



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